【掌編小説】てっぺん

キャー、と響く笑い声が、青空に高く溶けて消える。
ジェットコースターを降りた瞬間、喉がからからに乾いていた。
あたしたちも、下に聞こえるぐらい叫んでたってことか。
「あー、声がやばい」
「思いっきり目閉じてたでしょ! いちばんいいとこで」
「よっしゃ、次あれ乗ろ!」
女三人寄ればかしましい、ってやつだ。
あたしたちは四人だから、もっとにぎやかに違いない。
油断するとこぼれ落ちる涙も、ジェットコースターの風で、すっかり蒸発してしまった。
息つく間もなく、今度はメリーゴーランドに連れていかれる。
夏休みの小さな子どもたちに遠慮して、はじっこの馬車に乗ろうとしたあたしの腕を、友人たちはぐいっと引っぱり、
「まどか、こっち!」
いちばん大きな馬に座らされて、
「さあ、まどか姫。まいりましょ」
隣の仔馬にまたがり、うやうやしく頭を下げてみせる友人と、
「王子様の馬、ちっちゃすぎ!」
けらけらと笑う友人と、
「いや、姫は馬車じゃないんかい」
童話に忠実にツッコむ友人と。
にぎやかで、忙しくて、ほんとうに……あたしは、泣くひまもない。

--まどか、みんなで遊園地行かない?
塞ぎこんでいたあたしを外に連れ出してくれたのは、仲良しの彼女たちだった。
本音をいえば、とてもそんな気分にはなれなかったけど、からっぽになるほど泣き続けていたあたしには、彼女たちの友情がありがたかった。
で、行ってみたらこのとおり。
悲しみに浸る間もなく、だから喪失感に襲われる間もなく、あたしは久しぶりに笑っている。
いい年をした女四人が、体に不釣り合いなサイズの馬にまたがって、ゆるゆると上下している姿……シュールだな。
みんな、そんなに遊園地、好きだったっけ?
首をかしげたくなるほどのはしゃぎっぷりは、あたしを元気づけるためが半分で、もう半分は心から楽しんでいるのに違いない。
--今日は子どもに戻ってさ、遊びたいんだよねー! まどかもつきあって!
その誘い文句に、嘘はなかったな。たしかに。

「いやあ、乗った乗った」
--乗り物と食べ物を、全制覇する!
ひとりがそう言い出したものだから、開園とほぼ同時にやってきて、家族連れやカップルに混じってさんざん並んで。
でも、友だちと一緒だと、じりじりとしか進まない列で待つのも苦じゃない。
彼女たちとの会話は、昔からちっとも変わらなくて、楽しい。
幸せそうな人たちを目に映しても、あたしは涙を流すひまもない。
アイスもポップコーンも、フランクフルトもポテトも食べた。
みんなでシェアして、いっぱい食べた。
「かき氷がまだなのに……無念……」
おのれの限界に挑んで、お腹を抱えてベンチに倒れ伏す友人と、
「大丈夫だよ! 閉園までは、まだ時間あるから」
その背中をさすりながら、ポジティブに励ます友人と、
「明日からダイエットするわ……」
あてにならない誓いをつぶやき、今日はとことんつきあう覚悟の友人と。

お腹が苦しいから、次は静かなやつにしよう、と観覧車の列に並んだ。
ごうん。ごうん。ゆるやかに唸りながら、ゴンドラが回る。
乗りこむとき、ちょっぴり駆け足になってしまうのは、子どものころから変わらない。
「タイミングが難しいんだよね。なんか置いてかれちゃいそうで」
ふう、と腰をおろすあたしの横で、
「えー、考えたことないな。なんとかなるって」
自分が泣いても傷だらけになっても、歩くのをやめない友人と、
「わかる! ゆっくりなのに、止まらないっていうのがね」
人の痛みを自分ごとのように感じる、やさしくて涙もろい友人と、
「ま、地球も回ってるからね」
それでもマイペースに、自分を失わず生きる友人と。
かくん。小さくゴンドラが揺れた。
「あ。ほら、もうすぐてっぺん」
袖を引かれて顔を上げる、今日は一日、涙を忘れて過ごしたあたしと。

眼下の乗り物やテントが、ミニチュアに見える。
歩いている人は、豆つぶぐらいの大きさしかない。
あたしたちは遠くの山より高くにいて、こんなに空が近い。
なのに、空までは手が届かない。
「観覧車のてっぺんってさ、あっというまに終わっちゃうよね」
誰にともなく、つぶやいた。
「まあ、いいじゃん? また乗れば」
外を眺めたまま、こともなげに言う彼女と、
「景色が変わる楽しみもあるしねー」
やさしい視線で、世界を見つめる彼女と、
「下りてく間に、のんびり消化しろってことよ。次のかき氷のために」
現実を生きる、たくましい彼女と。
「……うん」
あたしは、ゆっくり息を吐いた。
「ありがと」
それぞれの景色を目に映したまま、みんなが笑った。

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