アルプス席の母(早見和真)

いい話だった…!

私、息子が2人いるのですが。
自分は姉妹で育ったため、男の子という生き物も、スポ少の世界も、未知でした。

わが家は今のところ、チームスポーツはやっていないので、
野球やサッカーやバスケや…熱心な方たちを遠目に見ながら、
「すごいな。私には無理だな」
と思う日々です。

だからね、読み始めて、びっくりですよ。

理不尽…!
意味がわからない…!!

これが、スポーツをする少年たちの世界なのだろうか。
この世界が、実在するのか。

高校球児の母である、主人公の菜々子の屈託が、
私の内にある実感として、迫ってきます。

でも。だけど。
可愛いわが子が、大事な息子が、真剣なんです。
一生懸命なんです。
やりたいことを、やっているんです。

だったら、母もやるしかない。
腹を括るような思いも、わかる。
ような気になる。

ときに唇をかみしめ、ときにうろたえ。
息子はどんどん成長し、知らない顔をたくさん見せる。
屈託のあった世界が、それでもいつしか、自分の場所になる。
高校生という、限られた時間の中での、母親として。

そして、その先にある景色。
もう、完全に自分事ですよ。
読み終えた私は、高校球児の母。
一緒に泣きました。

久しぶりに、ここまで感情たっぷりに読んだなあ。
いい読書だった。

菜々子は、こう思います。

“人が生きるということは、物語とは違うのだ。
人生が閉じるわけじゃない以上、いまこの瞬間が終わりじゃない。”

“そして人生がその後も続いていく以上は、やり残してはいけないのだ”

この言葉をそのまま、体現したようなラストもよかった。
夏の終わり、遠くでしゅわしゅわと鳴く蝉の声みたいに、
心いっぱいに、じわりと沁みてくる一冊でした。

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