5秒間の物語

先日読んだ『10代からの文章レッスン』の中にも、
“5秒を描く”という一節がありました。

*noteリンク*

文章を書く上で、一から十まですべてをまんべんなく描写する必要はなくて、
どこをどのように切り取るか。は、いつも考えているところなので。
試しに、5秒の出来事を書いてみよう! と思い立ちました。

まずは、今日車を運転していたら、後ろからバイクが追い抜いていった瞬間の5秒。

運転席の横から、ぐいんとバイクが姿を現した。
慣れない道をスローペースで進む私を追い抜いて、あっという間に背中が小さくなっていく。
6月にしては、季節外れに暑い日だった。
季節の先取りもかくやのスピードで、走り去るバイクの軽やかさが、ちょっぴりうらやましい。

これで126文字(数えてみた)。
5秒が126文字になるのなら、単純に考えれば、
400字詰原稿用紙1枚は、1日24時間のうち、15〜20秒あれば書ける。
という計算です。

これ、別に出来事ではなく、5秒の景色でもよいわけで。
たとえば、今の時期に美しい、新緑の木々が立ち並ぶ庭など。

青空に、緑の屋根が広がっているようだ。
立ち並ぶ新緑の木々は、静かに葉を揺らしている。
枝の隙間から差し込む太陽の光は、暑さのわりに、ずいぶんとやさしい。
私はようやくひと息ついて、額ににじむ汗を拭った。
初夏の空気が、ひらひらと肌にまとわりついてくる。
つい、と風が吹き抜けた。
葉っぱが、まるで花びらのように舞っている。

今度は156文字。
目の前で起こった出来事、見えている景色に、
その瞬間の心情を少しばかりのせたら、できあがる5秒の物語です。
あと、私は例えの表現が好きですね。よく使います。

なんなら、動いていなくても、見えてすらいなくても、書くものはあるわけで。

目を閉じて、ゆっくりと5つ数える。
声は出さない。
「いーち、にーぃ、さーん…」
低い声が脳内にこだまする。
お寺の鐘のような、重厚に響く声。
その響きに応えるように、自分の心臓の音が聞こえる。
耳の下から喉の横にかけて、ぴくぴくと脈打っている。
この5秒の間にも、私のからだは生き続けているのだと思った。

146文字。
何もなくても、自分自身の体を感じる5秒です。

5秒間でこれなら、とてもじゃないけど、
1日24時間、つまり86400秒もの描写なんて、できません。
気が遠くなる…。

それだけ、文章で表現できる瞬間に囲まれている、人間の毎日。
幸せだなあ、と思いますね。

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