むわりと湿った風の吹く、蒸し暑い朝だった。
空気が肌にまとわりつくのを通り越して、体じゅうの穴という穴から、侵入しようと試みているような。
なんとも息のしにくい、一日の始まりだ。
たとえば…と、考える。
この空気に、濃厚な花の香りが含まれていたら、
少しむせ返りながらも、まとわりついてくる匂いを、楽しむかもしれない。
芳醇な食べ物の香りが含まれていたら、胸いっぱいに吸い込んで、おいしさを味わうかもしれない。
馥郁とした香りなら、この重たい空気に侵食される感覚すら、快いのだろうか。
ねっとりと人型に練り上げられた飴のような気分だ。
何人もの飴細工が、今にも溶け出しそうな体を抱えて、行き交う雑踏を想像する。
今日は蝉の声もしない。
重たい熱を孕んだ空気が、世界のすべてを溶かしてゆく。
