【エッセイ】実家にて

帰省して、両親が健在であることによろこびながら。

さまざまな感情が、胸中をいきかう。

暮らしかたの違い。

言葉尻を受けとめる、とまどい。

子どものころ、苦手だった物言い。

愛情のかたち。

家を出て、別の家族になったからこそ、

見えることと、受け入れられることがある。

お互いに、きっと。

昔、わたしが好きだったおかずを、

食べざかりの時代の量を作ろうとする母に、

すこしずつ、今の私を伝えていく。

45歳になった娘は、もうそんなには食べられないのよと。

朝は和食が落ちつくわと、母が作ってくれたみそ汁と、卵焼きを口に運ぶ。

思い出のまま変わらない味と、

記憶とは少しちがう味と。

どちらも、ほわりと舌にやさしい。

もう、一緒に過ごしてきた時間より、

別々に暮らした時間のほうが、長くなった。

お互いに、それぞれの人生を生きてきたのだ。

こうしてときたま、歴史を交わらせては、

少しばかりの矛盾を飲みこんで、しあわせと健康を願いあい、

ふたたび別々の人生に戻ってゆく。

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