急いでいて、ドアに頭をぶつけた。
時間がないときに限って、そういうことがよくあるので、
「痛っ! もう!」と、イライラしがちなのだけれど。
そうっと、やさしく、なでてみた。
昔、子どもに「いたいのいたいの、とんでけー」をしたように、
自分にもしてあげたら、ほんのちょっぴり、やわらいだ気がした。
自分であれ他人であれ、やさしく労ってあげるのは、確かに大事なことなのだ。
昔、息子が転んで泣いたときに、なかなか気持ちが落ち着かなかったので、
「いたいのいたいの、お母さんにとんでけー! あいたたた!」
と、実際に人に飛ばしたように見せたら、
納得したのか、ぴたりと泣きやんだことがある。
母がオーバーに痛がると、笑って喜び、すっかり機嫌が直るので、
わが家ではしばらく「いたいのいたいのパスゲーム」のような遊びが続いた。
けれど、ある日、娘がこう言ったのだ。
「おかあさんに飛ばしたら、おかあさんが痛いから、やめて!」
唇を引き結んで訴える娘は、とてもやさしい子なのだった。
そうだよね。ごめんね。
自分が痛いからって、なんでも人に押しつけるのは、よくないよね。
娘に謝り、母は反省し。
以来、わが家では、
「いたいのいたいの、お空にとんでけー」
になっている。
娘が私にくれたやさしさを、周りの人にも、自分自身にも向けたいなあと思いながら、
出がけにぶつけた頭を、しみじみとさすっている。