文章を、整える⑤〜整え方を選ぶのは自分〜

文章は、一期一会の対話だから。
自分の伝えたいことを、読んでくれる人が、
なるべく近い手ざわりで、心地よく受けとれるように、
文章全体の流れを、よりよく整えます。

文章という木が立ち並ぶ庭を、実際に歩きながら、
枝の向きを少しだけ変えたり、葉にたまった露を払ったり。
風が通りやすいように、やさしく手を添える作業が「整える」。

私にとって、整えるとは、
ただ削ることでも、ただ並べかえることでもなく。
文章全体を通して、自然な呼吸で読めるように、
私の考えうる最高の形で、最高の場所に、言葉をそっと置くことなんです。

【例:元の文】
この風景は、自分の心の中にあったものだったけれど、
それがこんなに鮮やかに現実にあるなんて、不思議な気持ちになったし、少し泣きたくなった。

【整えた後】
心の中にしかなかったはずの景色が、いま目の前にある。
そのことが、静かにまぶたを震わせる。
不思議と、涙は出なかった。

私は、体の中にゆるゆると感動が満ちてゆく感覚を伝えたくて、
こんなふうに整えました。

書いた文章に、どうやって手を添えるか。
どこを整えるか。どこをそのままにしておくか。
同じ景色を見ていても、何を伝えたいのかは、
人によって、そのときによって、違います。

友達数人と、おいしいランチを食べに行ったとして、
私が伝えたい感動は、料理のおいしさかもしれない。
彼女がいちばん心躍ったのは、みんなでおしゃべりしたことかもしれない。
また別の彼女が嬉しかったのは、カフェに差しこむ、おひさまの温もりかもしれない。

伝えたいことが違うから、整え方も違う。
どう整えるかを選ぶ基準のすべてに、その人らしさが表れます。

私がしているのは、自分自身の感覚によりそう整え方。
そして、自分を含めた誰かに、過不足なく届けるための、対話の視点でもあるのです。

日本語の基礎を土台にしながら、
自分の感じ方で、文章という世界を作っていくこと。
書き上げたその文章で、対話すること。

言葉がやさしくつながっていくように、
私は文章を整えています。

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