怖いもの、残酷なものが苦手です。
憎悪、犯罪、戦争、暴力、貧困、飢餓、流血…そういったものに焦点を当てて見る歴史や、描かれている作品が、苦手です。
でも、小説家になりたかった私は。
物書きとして生きていくなら、世の中の目を背けたくなるような物事から、決して逃げてはならないのだ。
…と、考えて。
自分に負荷のかかる物事を、少なくとも日常生活には不要な程度まで、直視しようとして。
精神的に、ギブアップしました。
あやうく日常生活に支障をきたす寸前でした。
二十歳になるころだったかな。もう20年以上前になりますね。
それ以来、ずっと思っていたのは。
私が生きているのは、甘くてきれいごとだらけの世界で、私は何ひとつ本当には知らないまま、ぬくぬくと暮らしていて。
はたして、人の心を打つ文章が書けるのだろうか。ということ。
いまは逆に、その私にしか書けないきれいごとの世界がある。
と、わかったし。
私にしか書けないものを、大切に読んでくれるひとがいる。
ということも、すごく実感しています。
昔は「水清ければ魚棲まず」みたいに感じていたところもあったのだけれど、
視点を変えれば、魚がいなくても、美しく目を楽しまてくれる澄んだ水、はあるんだしね。
「私にしか書けないもの」しか、私は書けない。
その感覚が、ようやく腑に落ちてきた。
