昔、小説を書いた身としては、買わなきゃですよね!
…と、タイトルに釣られて(笑)。
読み始めたときは、正直、寂しいなと思ったんです。
過去をふり返って書かれていたので、2人の結末がわかってしまうから。
でも、読み進めるうちに、どんどん引き込まれていきました。
倉田健人がデビュー後に連載長編を書きながら、キャラクターの自律性を語るあたりから、特に。
最後に落ちるのがわかっているジェットコースターみたいに、急降下している感覚でした。
小説はときとして、制御不能な怪物になる。
この感じ、知っている。
物語は道順問題としてはきわめて特殊で、事前に定まった始まりや終わりを持たない。
完結した瞬間、真っ白な地に図が浮かびあがるように道筋が決まり、それによって事後的に始まりと終わりも決まるのだ。
共通しているのは、可変性と不確定性。
どんな風にも変われるかわり、なにも確かに定まっていない。
キャラクターが動いて、どんどん書くスピードが上がるのに反比例して、物語を制御できなくなっていく。
「おれは、逃げちまったんだ」
「なにから」
「小説から」
小説は、箱庭みたいだなあと思っています。
作者がコントロールして、緻密に作り込んでいく世界は、完成すれば、完璧で美しい。
けれど、制御を失うと、箱庭の囲いそのものが壊れてしまう。
そうして、破綻する。
怖くてたまらないのだけれど、書き進める以外に道はない、という焦燥の記憶も、甦りました。
落ちる。壊れる。
その寸前、エピローグで、ひょいっと掬い上げられたのです。
ああ、これは過去の話だった、と。
この箱庭は、完成していた。
私はよく、眠っている間に、真っ暗な宇宙を、どこまでも落ちていく夢を見るのですが。
地面に叩きつけられる寸前で、ハッと目が覚めて、安堵する感じ。
それに似た、読後感でした。
久しぶりに、不安定さを楽しむ読書になりました。