くまちゃん(角田光代)

今回の読書スポンサー様は、

イラストレーターの 岡田 佳央理 さんです!

【くまちゃん(角田光代)】

“失恋小説”です。

ふった人が、ふられる人になり、物語がつながってゆく短編集。

ひとりひとりの目に映る世界は、こんなにも別の景色なのだな…

と、わかっていたはずのことを実感したら、ちょっぴり息が詰まりました。

連作短編なので、登場人物は重なっているのですが、

視点が変わり、時期が変わるだけで、

本当に同一人物なのだろうか、と前の話に戻って確かめてしまう。

同じ人間が関わっていても、同じ物語を紡ぐことは、ありえない。

ふる側から見た彼、彼女。ふられた側から見た彼、彼女。

みんな、違う顔をしています。

誰かとともに過ごす時間は、並走しているようでいて、

実は、ほんの一瞬、交差しているだけなのかもしれないな…って。

たったそれだけにすぎない関わりだったかもしれないのに、

“いっときでも関わった人と別れるのは、そのくらいたいへんなことなのだ。”

という一節に、過去に体験してきた失恋の重みが、ずしりとのしかかる。

私は、私の目に映る物語しか、見ることができない。

ほんの一瞬ですら、うまく交差できなくて、世界が軋んだ音を立てる。

恋が終わっても続いていく、彼の、彼女の物語を見て、

心がぎゅうと絞られるような気持ちになるとき。

“なりたいものになるにはさ、自分で、目の前の一個一個、自分で選んで、やっつけてかなきゃならないと思うの。”

この言葉が「彼女」から出てきたことに、私はひどく救われたのです。

私にとっては、成長痛のような小説、だったかな。

そのときは、言葉にできないぐらい、痛い。

成長できれば、思い出という糧にできる。

失恋から時を経て、なお自身の物語を生き続けることを、“成長”と呼ぶのなら。

きっと、そうなのだと思います。

読み終えて、不思議と、元気になれる気がしたから。

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