ふり返れば、たいがいいつでも幸せだったような気がするし、
おおよそいつでも不幸だった気がする。
私は、とかく思い込みの激しい質で、
何かを見たり聞いたり読んだりしては、すぐに自分を同化させて、
感情がジェットコースターみたいに、大きく揺れていた。
ものすごく嬉しくなったり、ものすごく悲しくなったりを、
いとも簡単にくり返せる子どもだった。
だから、本を読んでいるときは、幸せだったなあ。
登場人物に合わせて、ぐらん、びゅわんと動く感情。
それを存分に味わっても、私は大丈夫なのだ。
物語は、いつか必ず、収まるべきところに終わるから。
現実は、なかなかそうはいかない。
相手が本当はどう思っているのか、どう動くのかなんてわからないし、
私は主人公たちのように、明るくも強くもない。
いつになったら、このジェットコースターから降りられるのか、
自分にもさっぱりわからないのだ。
本を読んでいる間は、一分の隙もなく作られた世界の中で、
安心して感情を動かすことができる。
絶対に振り落とされないし、壊れない。
私の知らない世界の数々を体験することに、全力投球できる。
最高に幸せな瞬間の連続だった。
結末のない現在進行形を、心から楽しめるようになったのは、
ずいぶんと大人になってからのことである。
