久しぶりに熱を出した。
飲めず食べられずで、体じゅうに溜め込んでいた、良いものも悪いものも、すべてが溶け出してゆく感覚の一日。
熱に伴う痛みと悪寒に呻きながら、いっそ体ごと溶けてしまえばいいのに、と思っていた。
一夜明けて熱が下がり、むくりと起き上がる。
ふわふわした体で、最初に感じたのは、喪失感だった。
自分の中に、こうして書き連ねる言葉さえ、何ひとつ残っていないような気がした。
驚くほど、何も感じない。
けれど私は知っている。
乾いたからっぽの体は、まず生命を維持することに、全力を注いでいるはずなのだ。
心身の安全なくして、豊かな感性はなし。
口の中を転がすように、ゆっくりと水分をとる。
ひと口、ふた口、食物を噛みしめる。
生命が潤ってくる。
喪失感が、徐々に爽快感へと変わってゆく。
この綺麗にからっぽになった私に、いったい何を入れようか。
ぱちん、とリセットされた体には、おいしく健康的な栄養を。
心には、みずみずしい極上の文学を。
さあ、本を読もう。