雨が降るでもなく、空は明るい水色なのに、やたらと湿り気の多い朝だった。
むわりとした空気が、体を覆ってゆく。
暑い、というには爽やかさが足りない。熱い。
ぷん、と土に混じった草の匂いがした。
ああ、草いきれ。
…ここで、ふと思った。
昔からあたりまえのように、この匂いを、空気を「草いきれ」と呼んでいるけれど、
いったいいつ、わたしの語彙に加わった言葉なのだろうか。
日常会話で使うことは、あまりない。
両親が口にしていた記憶も、学校で習った記憶もない。
たぶん、なにかの本で読んだのだろう。
あらためて調べてみる。
草いきれとは、夏の草むらから立ちのぼる、独特のむっとした熱気や匂い。
「草熱れ」と書くらしい。
わたしの感じる、熱と湿り気を帯びた強い匂いは、たしかに草いきれで間違いない。
晩夏の季語でもあるという。
昼間はまだ暑さが残るけれど、朝夕に秋の気配を感じる季節、の言葉。
わたしの体は、正確に季節を感じとっていて、
わたしの語彙は、ちゃんとそれを表すことができていた。
何気ない朝、自然の営みに沿って生きているわたしがいる。
