子どもを産めなかった佐都子と、子どもを手放さなければならなかったひかり。
どちらの人生も、胸に迫るものがありました。
朝斗を育てる佐都子には、今子どもを育てている自分の思いが重なり。
若くして子どもを産んだひかりには、同じように無知だった昔の私を見ているような、苦さを感じながら。
はっきりと、何かが解決するような話ではないのだけれど。
――でも、最後に、「ああ、朝が来た」と思えたことが、嬉しかったです。
私だって、実際の人生を切り取ってみても、明確なハッピーエンドやバッドエンドになるようなストーリーは、どこにもありません。
ただ、確かに、救われる瞬間はあった。
それからも人生は続いていくし、楽しいことばかりではなかったけれど。
佐都子のように、ひかりのように、「朝が来る」瞬間は、ありました。
彼女たちが、そこに至るまでの葛藤を、丁寧に描いてくれていて、自分のことのように体験できます。
もしかしたら私にもあったかもしれない、別の人生を味わえるのは、小説の醍醐味ですね。