長女が図書館から借りてきた小説なのですが。
どんな話かな? とあらすじを見たら、
感染から数週間で死に至る、その驚異的なウイルスの感染ルートはただひとつ、唇を合わせること。
昔は愛情を示すとされたその行為は禁じられ、 封印されたはずだった。
外界から隔絶され、純潔を尊ぶ全寮制の学園、リセ・アルビュス。
一人の女生徒の死をきっかけに、不穏な噂がささやかれはじめる。
彼女の死は、あの病によるものらしい、と。
学園は静かな衝撃に包まれた。
不安と疑いが増殖する中、風変わりな犯人探しが始まった……。
何それ! めちゃくちゃ気になる!
すでに設定勝ちですよ。
で、読んで見たら…何これ! おもしろい!
こんなのが児童文学の棚にあるなんて。
一般書に置かれていたら、絶対に私が選んでいましたね。
少女たちの心と、世間の価値観と、謎解きと。
世界観が存分に生かされた、深い味わいの物語でした。
折しも、新型コロナウイルスの流行の時期。
作中に出てきた論文は、これから迎える社会の揺らぎを指摘されているようで、どきりとしました。
ソムノスフォビアは、確実に社会の価値観と個人の距離を変化させた。
(中略)
調査によると、「見知らぬ人間には親しみではなく恐怖を感じる」と答えた人間の数は、十五年前の二倍近くなっている。
リベラルなほうへと少しずつ変化を遂げてきた社会に、また旧弊な価値観が持ちこまれようとしている。
ソムノスフォビア自体が、放埒に生きていた人間への神の怒りであると主張する人間も多いが、病はただの病に過ぎず、そこに社会的、宗教的価値観を押しつけることは避けるべきだ。
特に過剰なまでの純潔尊重は、弊害しかもたらさない。
ソムノスフォビアのキャリアは、母子感染の例も多く本人の性経験とはまったく関連がない。それなのに純潔が尊ばれるようになった理由はただひとつ。
他者への恐怖である。
特定の疾病をモチーフに描かれているわけではないのですが、エイズや肝炎などの問題を経ての現在。
この世界、絵空事ではない気がします。
約10年前に出版された本とは思えないほど、みずみずしい鋭さ。
物語性も、社会性も楽しめました。
ラストシーンも、私は好きです。
子どもだった美詩が、「こちら側」に来た感じが、ぞくりとします。
一気に読めるボリュームと、おもしろさでした!