友達に、貸してもらいました。
福井県出身の作家さんで、地元情報紙にエッセイを連載されていたので、名前は知っていましたが、小説は初めて。
読んでみて、何て綺麗な物語なんだろう、と思いました。
ピアノの調律の話だからなのかもしれませんが、空気と音が、とても澄んでいる感じです。
私にとっては、宗教画のイメージでした。
柔らかな光と風を受けて、音もなく翻るヴェールのような世界に、美しい旋律が流れていて。
そのメロディーを、さらりと掬い上げて、描いたような。
作中で、調律の理想とする音が、小説家・原民喜の言葉を借りて、こんなふうに書かれていました。
明るく静かに澄んで懐かしい文体、
少しは甘えているようでありながら、厳しく深いものを湛えている文体、
夢のように美しいが現実のようにたしかな文体。
――文体までは、私にはわからないけれど。
この物語に流れている空気感を表すなら、確かにその表現が、しっくりきます。
繊細で、素敵な読後感でした。