よろこびの歌(宮下奈都)

中学校からのお便りに載っていた、お薦め図書です。

紹介文のあらすじを見た長女が、「おもしろそうだよー」と教えてくれました。

さっそく図書館へ向かいます。

開いてみると、最初の方の一節に、付箋紙が貼られていました。

ひとりと孤独は全然違う。

何かに対してだけは決してどうでもよくならないこと、ぼんやりしないこと。それを才能と呼ぶんじゃないだろうか。

私より前に読んだ誰かの気配に思いを馳せながら、さらにページをめくります。

羊と鋼の森」のときも思いましたが、宮下奈都さんの紡ぐ文章は、なんて音楽的なんだろう。

確かにクラスの合唱が題材になっているけれど、音楽とは関係のない場所で生きている子たちの物語も、流れる旋律のような美しさ。

たまたま同じ学校の、同じクラスというだけのささやかな交差点が、それぞれの背中を押していくのが素敵でした。

もし、昔の私がもっと、クラスメイトに興味を持って接していたら。

あるいは自分の「ぐるぐるどろどろがつがつ」…「いろんな感情をむきだしにしたような、生々しい顔」を見せていたら、こんな出会いもあったのかもしれない、と思わずにはいられないほどです。

最後に玲が感じた、この気持ち。

音楽家ってしあわせな職業だ。人生にひとつも無駄なところがない。
つらかったことも、悲しかったりさびしかったりしたことも、人を恨んだことさえも、みんな血肉になる。
いいところも、悪いところも、私は私で、私から生まれる音楽はどう転んでも私の音楽だ。
立派なところだけじゃなく、駄目なところも含めて、どう生きてきたか、どう生きていくか。

音楽に限らず、言葉でも絵でも演技でも、およそ芸術といわれるものはもちろんですが。

その人その人の今生きている瞬間というのは、すべて血肉となった過去があってこそ、のものなんですよね。

ラストシーンで舞台に出ていくとき、向こう側には光が見えます。

彼女たちの背中は、その眩しさに怯むことなく、堂々と未来へ進んでいくように見えました。

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