お友達おすすめの小説を読みました。
【神さまのビオトープ(凪良ゆう)】
深くて、美しかった。
深い透明な水の底から、きらきらと射す光の、揺らぎを見つめているような文章でした。
読み終えて、ふうっ…と、長い息をつきたくなる。
改めて、タイトルに唸ってしまいました。
これは確かに「神さまのビオトープ」!
ビオトープとは、日本語にすると「生物生息空間」。
失われた生態系を復元して、本来その地域にいた生物が生きられるよう、人工的に作られた世界に、
私たち人間は、ときおり手を入れながら、その生態系を観察しています。
中にいる生物ひとつひとつの、意思や感情に寄り添うことなど、ほとんどない。
生命の繋がりと、生態系のバランス。
内側の生物には預かり知らぬ場所から、ビオトープという世界の理を保つ。
私たちがいま生きている世界も、同じだなあ、って思うのです。
世界の外側のことはわからない。
ここでいう“神さま”は、中にいる私たち一個の生命体の、意思や感情には寄り添わない。
そんな世界での人間の営みは、不条理に思えて、実は理にかなっているのかもしれません。
そして、この物語には“たったひとつの共通の真実”は、ありません。
ビオトープの住人は、世界の外側には行けないから。
だけど、内側の理からもはじき出されて、切り離された人たちが、
歪な愛の覚悟を決めて、孤独な夢を見る、ビオトープの中のお話。
自分は内側になじんでいる、と思っていても、
「思い込もうとしているだけなのかもしれない」
「私も、誰も彼も、歪さを抱えている」
と直視せざるをえないし。
そこにわかりやすい救いはないのかもしれないけれど、
覚悟を決めれば、幸福は確かにあるのだと感じました。
描き方によっては、どろどろとするであろう出来事も、
私たちが外から観察するビオトープのごとく、美しい文章で綴られています。
綺麗事とは違う美しさを捉えることができる、凪良ゆうさんが、すごいと思う。
著作を読んだのは初めてなので、これが“ビオトープ”ならではの描き方なのか、
凪良ゆうさんの持ち味なのかは、わからないのだけれども。
本屋大賞でも、たびたびお名前を拝見している、凪良ゆうさん。
ほかの作品も、読んでみたくなりました。