わたしが走ると、空気が動く。
むせ返るような暑さの、もったりとした空気の中を、
息苦しく泳ぐように走る。
やがて、体じゅうから汗が吹き出してくる。
そのまま走り続けていると、皮膚から熱が薄れてゆくのを感じる。
なるほど、よくできた人体のしくみだ。
確かにわたしは生きている。
小雨が降り始めた。蒸し暑さの原因はこれか。
雨に打たれて走るなんて、さぞかし辛いことだろう。
そう思っていたけれど、これが意外に悪くない。
ほんの少しの雨ならば、逆に体を冷やしてくれる。
それよりも、雨とともに吹きはじめた風のほうが辛い。
ささやかな向かい風ですら、足を前に出すのに、
とてつもないパワーを使う。
雨より風が手強いなんて、走ってみるまで知らなかった。
走る。走る。
わたしもメロスになれるんではないか、と思う。
速度の差はともかくとして。
雨と風の中を、友との約束のために、走り続けるメロスに。
わたしには、わたしを信じて待つセリヌンティウスはいない。
だけれども、秋の市民マラソンに、いよいよ参加申し込みを終えた。
未来のわたしが、人生はじめての5km完走を待っている。
”私は信頼されている。”
未来のわたしに、信頼されているのだ。
