【noteエッセイ】雨の日

大人になってから、雨の日の外出が苦手になった。

今でも、雨の音や粒や匂いは、楽しい。

雨そのものが、というよりは、それについてくる日常生活が苦手なのだ。

濡れた靴を乾かす、体を拭く、傘を干す。

自分のぶんと、子どものぶんと。

ひとつひとつは小さなことなのだけれど、人数と回数とが重なると、生活リズムを圧迫してくる。

だから、雨を楽しむ余裕がなくなる。

だから、雨が苦手になる。

高校生のとき、美術館のショップで、青空の傘が売られているのを見つけた。

閉じられていると、普通の黒い傘なのに、開くと内側には、青空の絵が一面に描かれているのだ。

雨の日には、こんな傘をさして歩きたいと憧れたけれど、当時の私には高価で手が届かなかった。

社会人になって以来、あちこち探しても、まだ見つけられないでいる。

今は、紫陽花の傘をさしている。

雨の日に、少しでも楽しい気持ちになれるようにと選んだ。

雨粒がぱたぱたと落ちる音や、窓の外を流れてゆく雫の跡や、世界を洗うような匂いを、好きでいたい。

雨の日を嫌いにはなりたくないのである。

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