名だたる文豪の書斎は、どこか雑然としている印象がある。
古びた家具のすき間を縫うように、本がうず高く積まれ、執筆道具が散らばり。
独特の空間の中で、唯一無二の物語が生まれる。
昔は、そんな住まいに憧れていた。
そのような場所でなら、私も何者かになれるかもしれないと、無意識に思っていたのだろう。
私が憧れていたのは、その文豪の作品と人生と哲学が体現された空間であり、雑然とした住まいそのものではない。
むしろ彼らにとっては、それすら外側から眺めたら雑然という現象であるだけで、
内側にいる者にとっては、独自の整然であったに違いないのだ。
さて、私の周りに積み上がる、雑然とした整然は何だろう。
大好きな本か、愛すべき思い出か。
少なくとも、シンクにうず高く積まれた食器でも、散らばった洗濯物でもないことは確かである。
主婦の一日は、まだ始まったばかりだ。