【noteエッセイ】凪の祈り

ぱちぱちぱち…と、雨が落ちてくる。

川沿いに立つと、雨粒が水面を叩いているのが見えた。

無数の波紋で、川が波打つ。

流れを目で追ってゆく。

波立つ川の中、不意に穏やかな水面が、姿を現した。

橋の下だ。

雨粒を橋が遮り、そこだけ帯のように、川が凪いでいる。

荒波を忘れた静かな平和が、そこにある。

今、雨が打ちつけるこの世界で、苦しみを抱いているあなたが、どうぞ安らかな凪に出会えますようにと祈った。

私には、それしかできなかった。

せめて、あの橋のようになりたかったけれど。

遠くから川面を眺めるしかできないように、あなたを叩く悪意を遮ることは、できなかった。

私には、雨に打たれて祈る以外に、何ひとつできなかった。

できなかった。

できなかった。

だからこそ、いま私は。

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