【noteエッセイ】私の原風景

毎年、五月の連休には、家族で里帰りをする。

私の育った家の周りには、田んぼが広がっていて、春になると蛙が元気いっぱいに騒ぎ始める。

今はちょうど田植えの時期。

普段はほとんど流れのない用水路のすみずみにまで、滔々と水が行き渡る。

どこもかしこも、集落全体がみずみずしくなる季節である。

泥をつけたトラクターが、のんびりと農道を走ってゆく。

田園風景の真ん中に立つ。

風が吹くと、見渡す限り広がる水面が、さあっと打ち寄せてくる。

海の上に浮かんでいるような、この風景が好きだ。

夏には緑の葉がそよぐ海になり、秋には金色の稲穂が揺らめく海に変わる。

小さいときは、あちらこちらに作った秘密の場所を走り回って遊ぶ、冒険の大地だった。

思春期にさしかかる頃には、何もないことに飽き飽きする、ただの田舎になった。

それなのに、こうして田んぼに囲まれて風に吹かれていると、いつも不思議と心が穏やかになる。

田舎を出る前は、大海原に向かう主人公のように、勇気と未来があふれ出る風景だった。

地元を離れてからは、抱いていた夢や希望を思い起こす風景になり、

母になってからは、私がここに生きて命を繋いでいるという、深い安心を感じる風景になった。

気がつけば、いつでも私の心のそばにある。

きっと、この海のような田園風景が、私の原風景なのだろう。

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