ようやく読んだ、本屋大賞受賞作。
――泣きそうで、泣けなくて、泣きたくなる本でした。
【流浪の月(凪良ゆう)】
読み終わったあと、硬くて透明ななにかを、飲み込んだような気持ちになる。
甘くておいしいドロップだと思ったら、そうではなく、
それに似た、なにかまったく別のもの。
すんなりとは溶けず、吐き出そうとしても、尖った部分が喉を刺す。
体の中に重みを残したまま、きらきらと輝いている。
きっと、もう、涙としてしか外に出せないのに、うまく涙にならなくて。
お腹の底に、きれいで甘くて鋭いなにかが、ずっとずっと、残っている。
そんな物語だったので、
“「たくさん幸せになってね」”
“事実と真実はちがう。そのことを、ぼくという当事者以外でわかってくれる人がふたりもいる。”
この2つの言葉が、それこそ涙がでるほど、嬉しかったんです。
凪良ゆうさんを読んでいると、人間の世界はまるで「ざる」みたいな造りだな、と思います。
強固な枠組みに囲まれていて、内側からはそのことには気づけないのだけれど、
外側から見ていると、ざるの目から、さらさらとこぼれてゆくものたちがいる。
こぼれ落ちるそれらを、凪良ゆうさんが描くと、小川のせせらぎのような、
静かに降る砂時計の砂のような、きらめくかけらを含んだ物語になっていく。
そのかけらがまた、読者の中で、溶けずに積もっていく。
夢中になって読んで、気がついたら、読む前と読んだあとの私、なにかが違ってるんだよね。
“なにか”が、何なのかは、わからないんだけど。
っていう没頭感が、好きです。