今回の読書スポンサー様は、 西村和子 さんです。
米好き・本好き・勉強好きの、西村さん。
その幅広い知識と話題に加えて、類稀なる“聴く力”をも併せ持つ、
穏やかに佇む才能人なのです。
そんな西村さんからの1冊は、
【52ヘルツのクジラたち(町田そのこ)】
町田そのこさんは『コンビニ兄弟』で、お名前を知った作家さん。
で、著作一覧に並んでいた『52ヘルツのクジラたち』というタイトルに、惹かれたのです。
読み始めて、なんて静かな本なのだろう、と思いました。
激しい場面もあるし、物語の緩急もある。
それなのに、賑わいもざわめきも、私は、どこか遠くに置いてきてしまったんだろうか。
海の中に、いるみたいだった。
心地よくたゆたうのではなく、とろりとした水に、絡め取られているような。
読んでいる私は、手足がうまく動かせなくて、しんしんと沈んでいく。
こぽり、こぽりと泡を吐き出して。
暗いんだけれど、不思議と周りは見えていて。
自分が吐いている泡と、水に包まれているから、無ではないのに、無の中にいる。
私に関わるほかのものが、およそひとつもない。
泡で息がつまりそう。
息を止めたら、このまま静かに、沈んでいけるんじゃないか…って。
だから最後に、キナコが、水底からの光る気泡を見て、52ヘルツの金色の輪を受け止めたとき、
ようやく私も、手足が動くようになった気がした。
――そうして、最後までたどり着きました。
現実味のないところにいた私が、読み進めてきた深くて静かな海を、
自分の内側に包んで、ふっとここに戻ってきて。
感動が、決壊しました。
読めてよかった。
たぶん、感情で入り込みすぎると、私には読みきれない物語だったのだろうな。
52ヘルツの声を、キナコたちに届けてもらいました。
聴く力は、私にはないのかもしれないけれど。
それでも、やっぱり、これを読んだら、
私も、聴こうとするし、見つけるから。って、思いますね。
“だから、お願い。
52ヘルツの声を、聴かせて。”