【読書スポンサー様】ひねもすなむなむ(名取佐和子)

今回の読書スポンサー様は、魔法の手のエステティシャン・ 土田 ゆりこ さんです。

「私も大好きな本なんです」と、贈ってくださいました。

【ひねもすなむなむ(名取佐和子)】

ひねもす、と聞くと思い出すのは、与謝蕪村の俳句。

「春の海ひねもすのたりのたりかな」

一日じゅう、緩やかにうねる波に似た穏やかさを、

同じひらがなの“なむなむ”から感じてしまうのは、不思議です。

お寺のお話だから、仏教の南無だと思うのだけど、

調べてみたら、京都の方言にも、まずまず。まあまあ。という意味で使う“なむなむ”があるそうなので、

京都に近い土地の住人としては、何となく音に印象があるのだろうか。

さて、こちらは私周りで、もっぱら、

「読んだら出家したくなる」らしい、噂の一冊です。

読んだら…ああ、なるほど確かに。

「こんなふうに、生きてみたいな」

と思わされる物語でした。

衝動に突き動かされる、このひとのような人生への憧れ、ではなくて。

恵快の、体に仏教が溶けこんでいる、澄んだ穏やかさに惹かれて。

仁心や恵快の抱えたものが、ページをめくるごとに、露わになって。

今の自分が、そう在れなくとも、いつかはたどり着けるのではないか。

“赦す”、その先の未来に。

こうして、生きているのだから。

自然と、そんな気持ちになるんです。

尊敬の粒を含んだ、憧憬の念に、ひたひたと満たされていく物語。

最初に思い出した俳句では、変わらずにゆったりと流れる風景が浮かびますが、

同じく緩やかな印象の『ひねもすなむなむ』では、変わっていない人が、いないんです。

この町の拠り所である、鐘丈寺の住職に、救いを求める「南無」の、

「南無三っ」と、変化に飛び込んでゆく人たちの勇気の、

東日本大震災の中で、多くの方々が口にしたかもしれない「南無」の、

すべてを包んで、居場所になる“なむなむ”の感じが、とても好き。

こんなふうに、生きてみたい。

変わらない居場所を、守れるように。

大切なものを、ずっと大切にできるように。

善く変わり続けられる、自分でありたい。

本を閉じて、静かにそう思うのでした。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする