辻村深月さんの本が、好きです。
王道を行く気持ちのよいストーリーから、
どきどきさせられる秘密めいた展開、どこか苦さの残る結末まで。
幅広いのだけれど、どれもおもしろいなと思う、稀有な作家さん。
【あなたの言葉を(辻村深月)】
辻村深月さんとの出会いは、6年前の『かがみの孤城』でした。
――なんで、わかるの。
きゅっと疼く、痛みを伴う少女時代の感覚を、
こんなにも的確に表現してくれるひとが、いるんだと。
そんな辻村深月さんの、小学生向け新聞の連載をまとめたエッセイ集が、
こちらの『あなたの言葉を』です。
一編あたり4ページほどのエッセイが、43編。
シンプルで、読みやすい本。
――なんで、わかるの?
再び、子どもだった頃の感情の記憶が、一気に目の前で弾けます。
“「苦手」と「嫌い」”
“水泳の授業”
“好きと禁止”
“人気がない子?”
このあたりは特に、私の話だったかしらと思うほど、似ている。
“小説だからできること”
“読書感想文”
“あなたの言葉には力がある”
そう、それ。わかってくれますか。
そんな喜びを、噛みしめる話も。
「辻村さんは大人なのに、どうして子どもの気持ちがわかるのですか?」
この問いに、彼女はこう答えています。
「私も昔、子どもだったから。」
子どものとき、感じていたけれど、うまく言葉にできなかった気持ちを、
大人になって「わたしの言葉」で、伝えられるようになった、と。
子ども時代だけでなく、あのとき言葉にならなかった“私”を、
辻村さんが見つけた「わたしの言葉」で、繊細に丹念に描いてくれる。
寸分の狂いもなく、細胞を採取して観察する研究者のように、
私が封じ込めてきた、あるいは落としてきた気持ちの姿を、ありありと、細やかに、伝えてくれる。
それを読んだ私が、今度は「わたしの言葉」を見つけてゆく。
連載を読んでいた子どもたちも、きっとその道のりの途中なのだと思います。
辻村深月さんが描くのは、「あなたの言葉」を見つける扉の、向こう側にある世界。
いま大人になった私は、扉の向こうで、子どもたちに、
「ここも試しに、のぞいてみたら?」と、笑顔で手招きできるような存在になりたいと思ったのでした。