比嘉教子 ひがっちさんの、神保町選書・2冊目です。
「自分目線で読むなら、こちらを」と、選んでいただきました。
【いつか月夜(寺地はるな)】
流れてゆく、物語。
章立てはあるのだけれど、明確に境目を感じない。
みんな「モヤヤン」を抱えているし、平和な楽園の話ではないのですが。
気づかないうちに、薄い膜を張って、心に澱む感情や、
いつできたかわからない、ささいな擦り傷みたいな痛みを、
そっと慈しんで、撫でるような言葉たち。
なかったことにするのでなく、ことさらに慰めたりするのでもなく。
向き合い、劇的にわかりやすく変化する、でもなく。
それぞれの、自分の内側や外側との距離感が、とてもやさしい物語。
ひとの全身の細胞が、入れ替わっていくときに似ている、と思いました。
ちいさく、目まぐるしく、ゆるやかに、確かに、変わっていく。
その過程に、ぽつりと出てくる言葉が、鮮やかに心に残ります。
“みんな、すごい説明してほしがる。わたしを理解しようとする。でも頼んでないし。
理解してくれとも寄り添ってくれとも言うてないし。”
“慣れる必要のないものには慣れてはいけないのだ”
“わたしのさびしさは、わたしのもんや”
寺地さんの文章に、ときおり現れる、眩しすぎない力強さは、
いつか出会える、やさしい月夜でした。