夜が更け、暗くなった田舎道。
昭和の家と平成の家が入り混じって建ち並び、畑が点在する住宅地で、
ふと見上げた一軒のおうちの、二階の窓が開いていました。
部屋はまっくら。夜風にカーテンがはためいて、
その陰からは、昔なつかしい風合いの勉強机が見え隠れしています。
たまたま部屋が無人だったという感じではなく、人が暮らす気配のしない部屋。
一階部分は暖かな灯りが点いていたので、なおさら静けさが大きく見えるのかもしれない。
子どもさんが独立して家を出たあとの、子ども部屋なのかな。
もう使われていないお部屋だけど、家具はそのままに置かれていて、
ときどき空気を入れ替えているのかな。
思い出したのは、実家の母。
私は早く家を出たい気持ちが強く、高校卒業と同時に、実家を離れたのだけれど。
私がいなくなったあとも、たまに帰省すると、子ども部屋は長らくそのままでした。
家の一部であるそこを、毎日あたりまえのように、
窓を開けて、空気を入れ替え、掃除をしていたのでしょう。
「早く起きなさい」「ちゃんと勉強しなさい」
なんて言葉を口にする必要もなく、静まり返った子ども部屋に入り、
淡々と家を整える母は、どんな気持ちだったんだろう。
子どもの成長は、嬉しいと寂しいが、いつも同居していたのだろうか。
自分も親になった今だから、母の気持ちはわからないけれど、
前よりすこし、想像できるようにはなりました。
使われなくなった子ども部屋は、現在、父の私室となっています。
うん。そういうのが、私は嬉しい。
わが子が進学で家を出たときに、
実家のことなんてどうでもよくなっちゃうぐらい、新生活を楽しんでほしい。
と、思ったものですが。
実家の両親も、子どもが巣立ったら、
子どものことなんて思い出すひまもないぐらいに、いきいきと毎日を楽しんでほしい。
そんな気持ちが、私の中にあったみたいです。
愛されているって、わかっているから。
愛しているって、知っているから。
今日は久しぶりに、両親に電話をしよう。
なんでもないように「元気?」「うん、元気」と、
いま生きている声と声とで、言葉を交わそう。
