裏庭(梨木香歩)

何気なく読み始めたら、予想以上にどっぷり浸かってしまいました。

裏庭から戻れない(笑)。

読み終えた今も、現実と裏庭の狭間を、ゆらゆらと歩いている感じがします。

少女の成長と自立の物語は多々あるけれど、内面が幻想的な豊かさで描かれているものには、なかなか出会えません。

裏庭の世界そのものにもどきどきしたし、照美の心と重なる葛藤には、一緒に傷口をひりひりさせながら読みました。

「なりたいのは、私しかいない」

照美の叫びは、いつか自分も聞いたことのある、生命の声。

人は生まれるときも死ぬときも、多分その間も、徹底して独りぼっちなのだ。

テルミィはこの絶体絶命の瞬間に、お腹にたたき込まれるようにそのことを知った。

それは不思議に清々しい気分だった。

私の纏っている鎧が、照美とともにひとつずつ剥がれて、どこまでも昇っていけるような気さえしました。

現実世界で、世代がどんどん繋がっていく謎解きも、おもしろかったです。

裏庭から帰ってきた照美の姿は、共に旅した読者の、人生の傷や鬱屈した記憶が浄化されるほどに輝いていました。

子どもの頃、蛹が蝶になる瞬間を見たときの感動に似ています。

生命の律動とか、躍動感とか、そういうものが心の底からわき上がってくる。

――けれど、こうして言葉を尽くすほど、読後感の鮮明さが、薄れてしまうような気もするのです。

とにかく、おもしろくて、清々しくて、圧倒的だった。

一緒に裏庭を旅することができて、よかったです。

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