食器を洗いながら、背伸びをしてみた。
ふくらはぎの運動になるかな、なんて軽い気持ちで。
ぐっと伸び上がって、驚いた。
10センチほど視界が高くなっただけで、シンクのお皿の見え方も、蛇口に向かって差し出す腕の感覚も、まったく違うのである。
普段、私の目に映る物事とは、別の何かになっている。
現実なのに、現実じゃない。
まるで、パラレルワールドに来たようだ。
さらに驚いたのは、すとんと足を下ろしたときに、姿勢がよくなっていたことである。
背伸びして、無意識にバランスをとろうとした体が、まっすぐに骨を積み上げた感覚があった。
ちょっと背伸びしてみただけで、こんなにたくさんの発見があるなんて…。
ジブリ映画「耳をすませば」の、主人公の台詞が脳裏に響く。
「私、背伸びしてよかった。自分のこと、前より少し、わかったから」
私の背伸びは物理的なものだったけれども、まったくもって真理である。
自分の目に映る世界以外のことが、前より少し、わかった気がする。