注文の多い注文書(小川洋子 クラフト・エヴィング商會)

友達が貸してくれた本です。

小川洋子さんは知っていましたが、クラフト・エヴィング商會は初見でした。

奇妙な品々と、そこから生まれる物語が、何ともおもしろい。

静かで、深くて、不思議で…深海を漂っているような本でした。

インターネットが答えを探し出すのがあたり前になった現代で、こんなゆらゆらとした世界を味わえるなんて、幸せです。

物語の醍醐味が、凝縮されています。

この本を読む前に、ちょうど娘と話していたのですが。

私はたくさん本を読みたいから、隙間時間を有効利用しようと思うと、

  • ぐっと読める集中力
  • 前回までのあらすじを瞬時に思い出せる記憶力
  • 時間になったらぱっと終われる切り替え力

が必要だよね。

ただ、そういうタイプの人はそもそも、小説世界にどっぷり浸かって帰ってこられないような読み方を、しないんじゃないかな…と。

で、この第2話「バナナフィッシュの耳石」を読んだら、

彼の小説を読み込むのは、一本の縄梯子を伝い、一段一段、物語の洞窟を降りてゆくのと似ています。

縄梯子の足場はゆらゆらとし、それが一体どこへつながっているのか予測もつかないのですが、その危うげな感じがいっそうこちらの胸を揺さぶります。

(中略)

当然のことながら梯子派の読み方は、時に自家中毒的な症状をもたらす場合があります。

迷路に入り込んだように頭がぐるぐるし、意識が遠のいて倒れるような状態です。

実を申し上げると、会員の中にはこうした読み方に否定的な者もおります。

広い地平をパラグライダーに乗って飛翔するような、水平的で、開放的な読み方を好む者たちです。

という一節があって、激しくうなずきました!

サリンジャーのお話だけれど、それに限らず、この小説を読む感覚は実によく理解できるし、なんて見事な表現なんだろう!

いや、おもしろかった!

最後の注文には、危うく私も足をすくわれそうになりながら、不思議な世界を存分に堪能しました。

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