わたしの本の空白は(近藤史恵)

近藤史恵さんの作品、種類がありすぎて、勘で何冊か選んできましたw

【わたしの本の空白は(近藤史恵)】

こちらは、前回の「サクリファイス」とは違った読後感。

「目覚めたら記憶喪失だった」という、ドラマティックを予想させる設定や、謎解きのおもしろさはありながらも、

現実はそんなに綺麗に解決しない。逆転劇もない。それでも日々は続いていくし、それが私の人生なんだ。

そんなふうに、人生の一部を切り取った、映画のような感じがしました。

現実には、誰にでもわかるエンディングは死ぬ日ぐらいだし、自身で区切りをつける以外に、物事の終わりや始まりを意識できない。

“記憶が戻れば、なにかが劇的に変わるかと思ったが、そうでもなかった。

思い出せないことがひとつあってもなにも変わらないように、

頭の中の空白が少しずつ埋まっていっても、あるべきものがあるべき場所に戻ったような気がするだけだ。”

冒頭、「記憶がない」とわかったときの、心もとない恐怖感は、

経験がないのに、著者の筆力で、リアルに想像できてしまいます。

その上で。

記憶がなくなっても、思い出しても思い出さなくても、これからも続いていく日常がある。

その現実が、重くて淡くて、尊いな…と思いました。

忘れてしまえば楽になるような記憶を失っても、やはり苦しさを上から塗り重ねるような選択を、私もするのかな。

――するんだろうな。

“どうして、人は幸福な記憶だけを持って生きていけないのだろう。

そう一瞬考えて、わたしは笑った。

幸福な記憶以外忘れてしまえば、もう一度同じ過ちをしても気づかない。”

だからこそ、ひとつひとつの経験を、刻み込んで生きたいんだな、と思います。

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