今回の読書スポンサー様は、
アーティスト・ ささぶち ひろみ さんです。
独特の世界観で綴られた、写真や文章は、鮮やかで切なくて、
ひとさじの哀しみが混ざった、美しいあたたかさを、私にくれます。
ひろみさんが贈ってくださったのは、
【泣く大人(江國香織)】
![](https://thankshappy.com/wp-content/themes/simplicity2/images/1x1.trans.gif)
前回の『泣かない子供』と、対をなすエッセイ集です。
江國香織さんの文章であることに、かわりはないのだけれど、印象がまったくちがうのに驚きました。
『泣かない子供』は、しんと静かな秋の夜ふけに、
とろりとした甘いシロップを喉に落としたような、ひそやかさ。
『泣く大人』は、春のうららかな昼さがり、
シーツにくるまって、日差しと風を贅沢に貪るような、開放感。
どちらにも、子どもの頃のこと、大人になってからのこと、両方書かれています。
歯のことや、本『プラテーロとわたし』、永瀬清子さんの詩など、共通の話題もあります。
読書日記も、同じようにあるのに、不思議と印象は真逆だったのです。
読む前は、
無垢で自由な子どもが選ぶ“泣かない”と、
瑕疵で不自由な大人が選ぶ“泣く”だと思っていたのですが。
実際に読んだら、
不自由だからこそ、大人になる過程の涙を、心の小瓶にそっとためた“泣かない子供”と、
自由だからこそ、おおいに笑い、嘆き、いろいろの涙を浴びるように味わう“泣く大人”。
まさに、表紙のおさるさんみたいに。
そんな、二冊のエッセイでした。
読んでみて、心底思うのは、
江國香織さんは、ひらがなの使いかたが、とてもうつくしいということ。
「ちがう」「こがれる」「おなじくらい」
「ひと」「なかに」「ひらく」「すてる」
どれも、私がさらりと書いたら、漢字に変換されるものばかり。
この、やわらかに包みこむ、ひらがなの言葉と、
「対峙」「覚束無い」「耽溺」「燐光」
「滑稽」「盲信」「躊躇」「逡巡」「俄然」「我儘」
といった、がっしりと張りつめた、漢字表記とのバランスが、
とても気持ちよく、私の体を流れていきます。
フルーツを浮かべたミネラルウォーターみたいな、贅沢な読書でした。