カフェに行った。
久しぶりなので、集中して味わうと、心に決める。
すると、思いのほか、意識が散ってゆくことに気がついた。
普段ならくつろげるはずのBGMや、窓の外を横切る鳥の影、
テーブルの隅に置かれているメニュー表の文字、カトラリーの角度…
目と耳から入るものたちが、忙しく私の内側を走り回ってゆく。
予期せぬ感覚たちの一揆に出会い、世の中は、なんて情報量が多いのだろうと、ため息が出る。
ゆるりと温んで、薄まってゆくアイスティー。
スプーンの先でふるふると揺れる、ワイン色のゼリー。
歯に当たって、ぱき、と砕けるコーンフレーク。
これは、まずい。
感覚に、身体をもっていかれる。
普段は、適度な距離を保ちながら、世界のあれこれを心地よく受け取っているのだけれど、
うまく集中をコントロールできていない。
感じたいものだけを、深く感じることができない。
いま必要のないものまでが、私の奥に入り込んで、暴れている。
この場合は、静かな部屋で本を開くか、文章を書くのが正解だ。
言葉の世界にのみ五感を向けると、もっとも没頭できる状態である。
あれこれの刺激を受け取りすぎて、散り散りになった私を、
ひとつに集めて引き戻すために、今こうして、書いている。