今回の読書スポンサー様は、Erikaさんです!
「あなただけの特別なアート」、スピリットアートを描く、
わがままに生きる、自由気ままなアーティストさん。
興味の赴くままに、タイトルに惹かれて、贈ってくださいました!
【ゼロからトースターを作ってみた結果(トーマス・トウェイツ)】
「ゼロから」って、どういうこと!?
これが、本当におもしろくて。
部品を買ってきて組み立てるのではなく、
個人の力で、鉱石を掘りに行って、プラスチックを生成して、
トースターを作るまでの試行錯誤、紆余曲折の記録が綴られています。
私は、物理や技術の細かい説明は、まったくわかりません。
読んだそばから文字が抜けていくレベルです。
それでも楽しく読めるのは、ひとえに軽妙な文章のおかげ。
“やぁ。僕の名前はトーマス・トウェイツ。この度、僕はトースターを作ったんだ。”
から語り始める著者は、大学でデザインを学ぶ若者なのです。
技術者でも学者でもない彼が、トースターを作るからこそ、おもしろい。
まず、著者は自分で、ルールを決めます。
1.僕のトースターは店で売っているようなものでなければならない。
2.トースターの部品はすべて一から作らなくてはならない。
3.自分にできる範囲でトースターを作る。
(“産業革命以前に使われていたものと「基本的に変わらない」道具を使って”
つまり、企業の技術を借りることはできない)
そして、意気揚々とトースターを解体して“秘密を暴き”、
100種類を超える材料を、何とか必要最小限に絞り込み、ひとつずつクリアしていく。
“やる気だけじゃ無理でしょ。”
“トースター本が紀行文めいて何が悪い。”
“中学時代に僕が身につけた化学知識の真価を発揮するときがきた(先に言っておくと、化学の成績はAだった)”
“えぇ、ルールの拡大解釈だということは認めますけど、
そのルールは僕が作ったものだから、僕が破りたかったら破ってもいいんです。”
などと言いながら。
完成したトースターは、お世辞にも「店で売っているような」外見とは言えず、
けれども、途方もない道のりを経て、ついに誕生した存在に、読者は世界の質感を塗り替えられるのです。
私は、あたり前に、便利な家電の恩恵を受けています。
いま手に持っているスマホの原材料なんて知らないし、動く仕組みもわからない。
鉄やプラスチックが、どうやって生成されるのかも、本を読んだ今も、
「大変な技術なんだな」というレベルでしか、理解できていない。
身の回りのものが、どこからどんなふうにやってきたのか。
その原材料を使うことが、自然にどんな影響を及ぼしているのか、普段は深く考えない。
著者は、この見えない部分を、
“貨幣経済においてはカウントされないコスト”
と表現しています。
トースターができあがるまでのいちいちを、
個人の手が届くレベルにまで分解して伝えてもらって、愕然とする。
私は、文明の積み重ねがない世界では、絶望的に何も作り出せない。
自分を取り巻く建物や機器類が、どれだけの技術と知恵と過程で、作られているんだろう。
そこを、ちょっぴりでも想像できるようになったとき、
世界のあらゆるものが、質量を持つ。
机上の空論、想像の範疇を超えなかったものの重みを、肌で感じることができる。
「経済だけ」「技術だけ」「環境だけ」に目を向けていたら、見えなかった世界が、
ここには、確かにありました。