彼岸花が好きだ。
秋になると、深紅の美しい流線型を描く花。
夜に紛れても、気高く凛とした立ち姿で、光を放ちそうな花。
わたしがまだ小さかったころ、土手に咲いていた彼岸花が、あまりに綺麗だったので、一輪摘んで帰ったことがある。
母に見せよう、と思って。
持ち帰ったら、ひどく怒られた。
「この花を家に入れると、火事が起きる花なのだ」と。
泣きながら、土手に捨て置いた記憶がある。
迷信だと笑い飛ばすことは、わたしにはできなかった。
いまもきっと、できない。
それ以来、彼岸花は、手折ってはいけない花になった。
たとえどんなに美しくとも、遠くから見ているだけの。
実際、毒性があったり、墓地の近くに生えたりするので、不吉な花とは言われるようだけれど。
あの流れるような美しさを愛するひとは、たぶんたくさんいる。
旅行の特集などに、彼岸花の名所が書かれているぐらいだし。
彼岸花を見ると、絵本『花さき山』を思い出す。
あれも、美しく気高い花だった。
ひとのやさしさとけなげさが咲かせる、生命そのものだ。
手折ることのできない花だ。
ほんとうに美しいものは、自分だけのものにはできないのだ、きっと。
はらはらと風に揺れる花たちや、空と海を黄金に染める夕焼けや、
ひとの心にある、やさしさや慈愛のようなもの。
