本の感じが「かがみの孤城」に似てるな、と思いながら手に取りました。
物語の第一部で、タイトルにもなっている、小野里さんの「傲慢と善良」の語りと、真実を追う過程でそれを痛切に感じていく架に、どんどん共感が深まっていきます。
小さくて狭い世界の中で、自分の物語をねじ曲げて作り上げてしまう陽子の姿は、両親とも自分自身とも重なるところがあって、吐き気をもよおすぐらい、感情に入り込んでいた一方で。
真実はわかったようでわからない、ぼんやりとした、どこか遠い存在のような気がしていました。
ところがどっこい、第二部で真実の人生に立ったとき。
「あ、これは私だ」と息を飲み、そちらに引き込まれてしまった。
足元をすくわれて、砂の中に沈んでしまいそうな感覚でした。
私は真実に近い、「こっち」の人間だったんだな、と。
「ヤバイ」と蓋をして理解しようとしてこなかったこと、無意識に依存したままの自立、なりたかった“いい子”の姿、嘘の世界で上手に生きられない自分…。
全部、何もかも、覚えがある。
たぶん10年前の私だったら、当事者すぎて、まともに読めなかったと思います。
だから、真実が「次の場所」に行けたことが、本当に嬉しくて、心強い。
辻村深月さんの描く10代の感情は、「これ、知ってる」と思いながら読むことが多いのですが。
この本のような30代や、20代の葛藤もまた、確かに知っているし、私の中にありますね。
辻村深月さん…何者なんだ(笑)。
表のきらきらした光の勢いも、裏のぐるぐるした迷いや苦しみも、共感性が半端なく高くて。
読むたびに心が揺さぶられて、いつでも新しくて、まだまだ奥には知らない何かがありそうで…まるで森みたい。
物語だけでなく、作者そのものにも、興味が湧いてきた私でした。