友達に教えてもらって、奇妙で不思議な世界観を好きになりました。
クラフト・エヴィング商會の小説です。
【クラウド・コレクター 手帖版(クラフト・エヴィング商會)】
現実には存在しない“物”を作り、写真や文章や絵で“語”る。
クラフト・エヴィング商會は、そんな“物語”の提供者。
現実と虚構の狭間を、滑らかで透明な何かで、するすると埋めていく。
自分の内側にある見えない世界が、確かに満たされていく。
のだけれど、読み終えてふり返ると、そこにはやはり、黒々とした狭間が横たわっていて。
いったい何で埋まっていたのやら、さっぱりわからない。
ただ、“滑らかで透明な何か”が通りすぎていった、痕跡のようなもの…
五感の雫、のようなものが、ほんのりと残っているのを、
ていねいに掬いとって、つぶさに感じてみるしか、いまの私には術がない。
クラフト・エヴィング商會の本は、そんな独特の読後感なのですが、
これはまた、一段と“雲をつかむようなお話”だった…!
目に見える現実、いわゆる客観的事実といわれるものだけ見てみれば、
なんということもないような(いや、多少はあるような)、
「あら、そういうことでしたのね」と呟いて、本を閉じる物語。
一方で、心の内側、深層心理や想像世界と呼ばれるような場所から潜ると、私の思考は、完全に迷子。
思考しようとすると“一人解釈の戦い”になり、にっちもさっちも本編が進まなくなるので、
感覚と雰囲気にくるまって、描かれている世界を、ともに巡ってゆきました。
読み終えたあと、いまの自分には見えない“世界の裏側”が、するりと横を通ってゆく感触がする。
その形を、手ざわりを、色を、匂いを、少しでも確かに感じたくて、
無数の“壜”に囲まれた、クラウド・コレクターの館に、私も足を踏み入れてみたくなったのでした。