本のエンドロール(安藤祐介)

とても、いい本でした。

個人的に「いい」というのは、作品の賞賛に使うには、苦手な言葉です。

どうしても対義語の「悪い」を連想して、二者択一のようなきつい印象を受けてしまうので。

でも、だからこそ、掛け値なしに「いい」と思ったときは、迷いなく「いい」と口にしたくなる。

読み終えて、大きく息をつきました。

本好きにとっては、両手で捧げ持ちたくなるような、尊い物語。

作家の手を離れてから、本が書店に並ぶまでを、今まで具体的にイメージしたことがありませんでした。

たくさんの人が関わって、情熱を注いで、本が造られて、めぐりあうことができる。

本屋さんに本が並んでいるのが、自分がその1冊を手に取るのが、ものすごい奇跡のようなことなんだな、と。

帯の文言たちが、ことごとく共感しかない!

ちなみに私は、電子書籍も多少は使いますが、圧倒的に紙の本が好きな派です。

主人公が最後に感じた、

印刷機は溌剌と動き、今日も新しい本を世に送り出す。紙の本は消えることはなく、しかし緩やかに廃れてゆくだろう。

(中略)

そして、廃れゆくことは敗れることではない。廃れゆく本を造る仕事を選んでこの場にいる限り、負けることはない。

廃れてゆくものを守る人間もまた必要なのだと思う。そんな仕事だからこそ、好きでなければ続けていられないと思うのだ。

そこにあるのは悲壮感ではなく、作り続けることへの誇りや日々の達成感だ。

自分はそういう者になりたいと願う。

本造りは続いていく。浦本の目の前で、確かに続いている。

完成を待つ本が絶えない間は、ほんが消えてゆく恐怖に慄いている暇などない。自ら選びとった場所で縁を得た人たちと、これからも本を造っていくのだ。

大好きな本を、このように誇り高く作ってくれている人たちがいるのだと思うと、それだけで嬉しいですよね。

本編だけでも十分すぎるほどの情熱を受け取りましたが、このコロナ禍で書き下ろされた特別掌編にも、心打たれます。

「本は不急ではあっても、不要ではない。すなわちそういうことですよね」

「書店が休業したあの時は、耐え難いぐらいショックでした」

「ただ、私はやはり紙の本が好きです。書店のシャッターが開いた時は、自分も息を吹き返した心地がしました」

これももう、わかる! としか言えない。

こうして「本は必需品」だと、はっきり言ってくれる人のいることが、私にとって深い喜びと安心感。

これは、電子書籍ではなく、紙で読むための本です。

ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」と同じくらい。

本を手に取り、ページをめくり、読む幸せが詰まっている、極上の物語でした。

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