最近、「感情」の方に気を取られていて、「感性」が疎かになっていたような気がして。
基本に戻ってみることにしました。
著者が考える「感性」とは、仏教でいう「智恵や慈悲のベースになる」もので、
周囲の人や物に対するさまざまな気づきと共感する能力
と表現されています。
感性という土台の上に理性が築かれていくものなのでしょう。
ですから、感性という基礎をしっかり作っておくことが大切なのです。
そして、
感性は「磨く」と言われるように、感性の原石が私たちの身近にあって、磨けば光ると考えられてきました(「感情を磨く」とは言いません)。
(中略)
その原石にどのような磨きをかけるかは自分次第です。
花を「花ことば」というやわらかい布で磨いて、一輪の花を心の花畑にまで昇華させる人もいます。
橋を見て「建設費やメンテナンスに、いったい、いくらかかるのだ。それは私が払った税金から出ているのだぞ」と、損得という目の粗いヤスリで削ってしまう人もいます。
そんな中で、「私たちの周囲にあり余るほど転がっている原石を、どのように磨いていけば人生が豊かになり、心おだやかになれるか」について、仏教を軸に書かれた1冊です。
心おだやかにある
「心おだやか」というと、私には、凪いだ海のようなイメージです。
よくよく見れば、いつかの荒れ狂う波の名残で、水面はわずかに揺らいでいるかもしれないし、海中ではさまざまな生き物が泳ぎ回っているかもしれない。
でも、海全体を眺めてみれば、何ひとつ動いていないように見える。
そんな心持ちが、「おだやか」だと考えています。
実際、特に困り事もなく、体調も悪くない…なんていうときは、誰しもそのように過ごしやすいことでしょう。
けれど、気持ちがささくれたり、感情が荒波だったりしそうなときも、おだやかにあるのが理想です。
「マイナスを感じない」のではなく、「プラスもマイナスも感じた上で、穏やかに受け入れられる」状態ですね。
仏教の目指す理想の人間像を、著者はこのように表しています。
天気が悪くても、お金がなくても、健康でなくても、好きな人から好かれなくても、仕事がうまくいかなくても、人間関係が悪くても、心がおだやかな人
これを実現するのに欠かせないのが、感性というものなのだな、と思います。
普段の何気ない生活から、苦しみや悲しみの中にいるときまで、いろいろな物事について、感性を磨く捉え方が書かれていましたが、特に心に残ったのは、この2つでした。
心のアンテナの感度を少し上げれば、日常の風景が楽しいことで溢れる。
これは、よくわかりますね。
小さな幸せや喜びを感じることができるほど、心豊かで幸せな日常になります。
よくわかっているはずなのに、忘れやすいことです。
私は普段、「子どもの世話で寝不足になって眠い」とか、「本当はあの店のこれが食べたかったのに」とか、少しばかり不満を感じることがあるけれど。
思い出してみれば、子どもが生まれたばかりの頃は、授乳・おむつ・寝かしつけ・家事のエンドレスループで、細切れ睡眠もいいところでした。
出産以来、初めて朝まで眠れた日の感動は、今でも覚えています。
食事は「抱っこのまま片手ですばやく食べられるもの」ばかりを選び、外食すれば、ファミレスに行こうが蕎麦屋に行こうが、ひたすらうどんを注文する日々。
ようやく、温かいものを温かいうちに食べられた日。
自分のために選んだメニューを、両手で食べられるようになったときの喜び、ありありと思い出せます。
だけど、いつもは忘れてしまっているんですよね。
あのときの感度のままで暮らしていたら、「今日も朝までよく眠れた!」と喜び、「温かいごはんをゆっくり食べられた!」と感動する毎日になる。
心の感度を上げようと、改めて意識できた項目です。
悪いことだと知ってやると、大切なものを失う。
もうひとつは、これ。
悪い意味で大人になってしまった自分への、戒めになった項目です。
清廉潔白でやさしい心の持ち主でも、それを保護していた膜に「悪いことだと知っているけど、これは仕方がない」と小さな穴を開けてしまえば、その穴が広がり、保護していた膜自体がなくなり、中にあったきれいなものが流れだしてしまいます。
「みんなやっているし、まあいいか」「このくらい、仕方ない」と、成長過程で諦めていくことって、多いと思うんです。
ほんのちょっとの交通違反や、怒られないための小さな嘘、必ずしも正義が勝つわけではない経験。
諦めて受け入れなければ、生きづらくなることも、確かにあったと思います。
けれども、「それでよし」「それがあたり前」としてしまっては、やっぱりいけないな、と。
自分なりの美学や美意識を持っている人は、この膜をしっかり保っているような気がします。
少なくとも、自分が「これは悪いことだ」と思いながらやってしまうようなことは、辞めよう。
幼い頃、まっすぐな正義感を表した長女のような気持ちは、忘れないでおきたいものです。