こちらは小説ではなく、エッセイ集です。
【図書室で暮らしたい(辻村深月)】
辻村深月さんは好きな作家さんのひとりで、最初に読んだのは「かがみの孤城」。
あっという間に物語に惹き込まれる、圧倒的な引力がありました。
謎解きの部分ではなく(もちろんそれもあるのだけれど)、
10代の頃に感じていた、言葉にならない苦しさ、焦り、憧れ。形にならない空気感のような記憶。
そういうものが、これでもかというほど鮮明に描かれていて、
「この人は、どうしてこんなに“わかる”んだろう…」と思いました。
そこから何作品か読ませていただき、「サクラ咲く」や「島はぼくらと」も、同じ理由でおもしろかったし。
「噛みあわない会話と、ある過去について」や「朝が来る」など、大人の内側がとぐろを巻いて深く抉られていくような物語も、ずしりと読み応えがありました。
「ハケンアニメ!」の情熱も好きですし、脚本を書かれたドラえもんの映画は、子どもと一緒に見ました。
本当に同じ作者さんから生まれたの? と疑いたくなるほど幅が広いのに、的確に共感を揺さぶってくるんです。
辻村深月さんは、私と同じ1980年生まれ。
彼女が本を通じて育った世界と、私が本を通じて育った世界は、どことなく似た匂いがします。
同じ空気を吸って、同じ時代を過ごしていたであろう作家さんが活躍されているのは、素直に嬉しいです。
で、エッセイがやっぱりプロだなあって感動しました。
描かれている日常の風景で、特に子どもや読書のエピソードなどは、私にもありえる出来事なのに、
“辻村深月”の目を通して“辻村深月”の言葉で綴られていると、すごく魅力的な世界に思えるんです。
そう感じさせる力が、まさにプロだなあ、と。
こちらのエッセイ集の中で、私が特に好きだったのは、
・自分そっくりの本棚に出会った話「ドッペルゲンガーの本棚」
・ドラえもんのひみつ道具の本質が便利さではない話「今日は何の日?」
・ばいきんまんの悪の哲学の話「ばいきんまんのマーチ」
・子ども番組の魅力の話「子ども番組の楽しみ」
でした。
読み終えてから、作中の「おにぎりとの再会」に出てきた、卵焼きおにぎりを作って食べてみました。
これが作者と同じ味かはわからないし、持っている思い出も違うけれども。
ただ、本の向こうに“辻村深月”という存在を、確かに感じながら食べるおにぎりは、味わい深いものがありました。
私も今、こうして日記を書いていますが、いつかエッセイのように、作品に昇華できるほどの筆力をつけられたらいいな。