一日ごとに暖かくなり、季節が春になってゆくのとともに、虫たちが活動を始めた。
虫嫌いの私にとっては、試練の始まりでもある。
今年の啓蟄は、確か3月6日だった。
この「蟄」という文字からして、好きになれない。
虫が粘っこくまとわりついてきそうな印象を抱いてしまうのだ。
それでいうと、「蠢」は最高に嫌かもしれない。
虫が3つも入っている時点で、どうにも愛せそうにない。
好きになれない文字といえば「鬱」もそうだ。
書きづらい上に、用途が限られすぎていると思う。
画数が多くてロマンを感じられるのは「薔薇」と「龍」ぐらいのものである。
やはり、見ていてハッピーな気分になる文字が好きだ。
「希望」「美」「愛」「信」…幸せそうな意味合いを持つものは、単純に愛しやすい。
しかし、私が何より好きなのは、丸みや流れを感じられる文字なのだ。
つまり、ひらがな。
中でも「の」「う」「と」が最高である。
「あ」や「ゆ」も捨てがたいけれど、シンプルで線の重なりが少ない文字のほうが、丸みが際立つので好きだ。
書道家さんなどは、この文字の印象や美しさを、どのように捉えて芸術の域にまで高めておられるのだろうか。
その感性は、私が単純な好き嫌いで語るものの比ではないに違いない。
書道に明るくはない私だが、ただ綺麗な文字というのではない、芸術的な美しさで描かれた文字は、心踊るものがある。