【noteエッセイ】不要不急の贅沢

美容院に行ったら、シャンプーが夏仕様になっていた。

頭皮がすっと冷える、清涼感のあるシャンプーだった。

丁寧に泡立てて髪を洗ってもらい、肌で直に感じる冷たさを味わっていた。

真夏の川遊び、清流に足をつける瞬間に似て。

冷気が立ちのぼるほどに冷やされた頭皮に、

泡を流すためのぬるま湯が、ひたひたと掛けられる。

冷やしたところを、温める贅沢。

真冬の「こたつでアイス」を思わせるシチュエーションである。

暑いから、冷やす。寒いから、温める。

そうして快適になったところを、あえて温める。冷やす。

頭皮の清涼感が鮮烈であればあるほど、お湯の温かさが、

まるで愛情であるかのように、じんわりと沁みる。

不要不急の温度変化を、楽しんでいる。

サウナ的な健康効果が、多少はあるのかもしれないけれど。

命にも暮らしにも、直接は関わりのない体験を、わざわざ作り出して、楽しむ。

この贅沢が、人間の生み出した豊かさの形なのだろうか。

シャンプーをしてもらいながら、そのように脈絡もとりとめもないことを考えられる、

今日の私が生きている、この場所は豊かで、ありがたい限りだ。

実に良きひとときだった。

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