その日、私は高台にいた。
木々の合間をぬって、眼下にささやかな町並みと、水平線が見える。
もうじき、日が暮れようとしていた。
夕焼けに包まれる前のひととき、空と海の青が、深みを増してゆく。
町にぽつり、ぽつり、と明かりが灯る。
街灯だろうか。
まだ明るい空で見つけた、いちばん星のようだ。
なんだか、とてもいいな、と思った。
ずっとそこにあったものが、輝き出す瞬間だとか。
ミニチュアみたいな町の中で、確かに人が暮らしている実感だとか。
自然が生み出す、夕暮れの綺麗なグラデーションを、
邪魔しないようにそっと灯る静けさだとか。
素敵だと感じたものは、たくさんあるのだけれど、
情景を言葉にすればするほど、気持ちの輪郭があやふやになっていくようで。
今日は、ただ「なんだか、とてもいいな」のままでいたい。