私はよく、何もない場所でつまづいたり、目の前の物にぶつかったりする。
注意力散漫らしいのだけれど、自覚がなかった。
わが家では、
「お母さんは、いつのまにか、どこかにぶつけて、痣ができる人間」
という、不名誉なホモ・サピエンスになっている。
母親科・注意力散漫属・ヒト。
そんな私、なんとついに、自分の不注意の瞬間に気がついたのである。
本屋さんに行ったときのこと。
本好き科・読み始めたら終わらない属・ヒトである私は、
書店や図書館など、本棚に囲まれた場所に行くと、回遊する習性がある。
残念ながら、滞在時間には限りがあるので、
後ろ髪をひかれる思いで、会計を終え、店を出る。
そのとき、私の目はどこまでも、あちらこちらの本棚をさまよっているのだ。
レジのそばにある、本の紹介ポップに気を取られ、隣を歩いていたわが子にぶつかる。
入口に平積みしてある本をふり返った拍子に、足が絡まってよろめく。
――私は確信した。
謎の痣が、定期的に増える原因は、これに違いない。
目に入るものに、次々と興味を奪われるものだから、
集中する点が多すぎて、結果として注意力散漫になるのだ。
多点集中科・目が泳ぐ属・ヒト。
母として日常を生きるには、なかなか厳しい習性ではあるけれども。
本棚回遊型ホモ・サピエンスとしての能力は、もしかしたら高いのかもしれない。