【エッセイ】詩を書くひと

なんでもない風景を、物語のように書けるひとに、憧れる。

人生は物語で、日常も物語だと思っている。
私の目にも、なんでもない風景が、美しく尊く映る瞬間がある。

だけど、その感動を、そのまま物語にはできないのだ。

一瞬を物語にするためには、そこに至るまでの五感や感情を、丹念に繋げていきたい。
ひとつずつ編んでいくビーズ細工のように、繋げたほうが美しい形になるに違いない道筋をたどって、
最高の一瞬へと向かい、花開き、収束していきたい。

その道筋が、私には見えない。
風景は風景として点在し、写真集のように、あるいは詩集のように、
独立した世界に完結している。

なんでもない風景を、物語として書くことができない。
静止画に動きを与えることができない。

いま、道を歩いていて、ふいに空をよぎった鳥の影も、
風がさあっと私のからだを通り抜けたみたいだ。
と感じたけれど、そこに至るまでの物語がない。
ただ歩いていただけだ。

なにか考えていて、風とともに鳥が私のからだを吹き抜けていったなら、
迷いの晴れる瞬間を迎える物語になったのだろうか。

ただ歩いていて、ふと思いがけない感動に出くわしただけの私は、
やっぱり静止画なのである。

心がうごいた瞬間を、そっと留めておくために、
美しく尊い一枚の風景に、短い言葉を添えておく。

なんでもない風景を、物語のように書けない私は、
詩のように書くひとに、なった。

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